あらゆる点で破格のスケールを持ち、全世界で一大ブームとなった大河ファンタジー・ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』(以下GOT)がついに最終章を迎えた。熾烈な玉座争いと濃密な人間ドラマが繰り広げられる中、数少ない善良なキャラクターとして人気を集めているのが、女騎士ブライエニー、従者のポドリック、そしてナイツ・ウォッチのサムの3人だ。この3大善人キャラクターの吹き替えを担当した、ブライエニー役斉藤貴美子さん、サム役の最上嗣生さん、ポドリック役の白川周作さんが集結し、足掛け9年、全8シーズンに渡って付き合ってきたキャラクターたちへの愛、そして作品への熱い想いを語ってくれた。
――3人が演じたキャラクターはドラマの中でも数少ない善良なキャラクターでしたが、これだけ長く演じてきた今の思いは?
斉藤:ブライエニーはああいう体形に生まれて嫌な思いをしてきたから、女に生まれながら女らしさを捨てて騎士として生きていこうとしているんですけど、根本がやっぱり女性なんですよね。すごく愛情深いし、忠義にも厚い。愛した人をちゃんと守ろうとするその姿は、異性に対する愛のようであって、母のような愛を持っている人だなとずっと思っていて。最初の主君であるレンリーに始まって、キャトリンやスターク姉妹と、彼女は仕える相手をずっと守ろうとしていて、そこにブレがないのは彼女がやっぱり女性だからかな、と。母性の女性っていうのかな?
――このドラマの女性キャラクターは母性的な人が意外と多いんですけど、その母性の在り方がみんな違うところも面白いですよね。
白川:違いますよね~。
斉藤:こういう戦を描いた作品って男性が中心になりがちで、女性キャラクターは日陰にいるようなものも多いですけど、GOTは全く違うんですよね。いろいろな立場の女性が出てきて、その中でブライエニーは戦う事でしか自分を示せない意味での母性というか。もし彼女が同じタース家に生まれていても、身長163cmで華奢な女の子だったら、ああはなってなかったと思うと、つくづく良く出来た話だねぇ~って(笑) GOTの生々しさってそういうところなんですよね。善悪もそうだし。単純にいい人、悪い人とは決めつけられない。ドラマを見ていて嫌な奴だと思っても、その人にはその人の正義や信念があったりする。
――筋が通っているんですよね。
斉藤:その中でも今回揃った3人は万人的に納得してもらいやすいキャラクターなのかなって(笑)
白川:分かってもらいやすい!(笑)
斉藤:野心的だったり、残酷だったり、いろんな人がいる中で、みんな自分の信念を持っているんだけど、ブライエニーに関して言えば、自分が信じて、仕えると決めた相手に対して絶対的な忠誠心を示す事が彼女のアイデンティティになっているんですよね。じゃないと自分は生きていけないっていうくらいの忠誠心だなって、演じながら思ってましたね。
最上:一番騎士らしいですよね。
斉藤:そう。だから彼女が報われるシーンではもう涙出ますよね、ホント。
最上:いや、この最終シーズン、メイン・ヒロインはブライエニーなんじゃないかって(笑)
斉藤:今3話まで収録してるんですけど、今のところそうかも。
最上:来ましたよ、ビッグ・ウェーブが!(笑)
白川:いろんなところから矢印が……(笑)
斉藤:ちょっと私にも来ないかなぁ(笑)
最上:いやいや、来てるでしょ!(笑)
白川:え、そういう話になっちゃうの?(笑)
斉藤:いや戻す、戻す(笑) 最上君としては、サムはどうだったの?
最上:サムはもうね、みんなのマスコット的な部分もあると思うんですけど、多分一番視聴者に近いキャラクターだと僕の中で勝手に思ってるんです。いざ戦だとなった時にみんながみんな勇敢に立ち向かえるものではないし、逃げちゃう事もあると思うんですよ。一番人間らしいというか。
白川:リアルな反応なんですよね。
最上:サムも貴族に生まれて今まではそんなに不自由なく生活してきたのが、<壁>に送られて最初はびくびくおどおどしてたんだけど、ジョン・スノウと出会って仲間が出来てからは、「逃げちゃいけない時がある」って事を自覚していく。そこがね、一番応援したくなるキャラクターの一人かなって。最初は気弱で太っちょで、みんなこういう人いるよねって感じで見ていたと思うんだけど、最終的にはサム、がんばれって気持ちになってるというか。最終シーズンでも大きい戦闘があるんだけど、サムは何回もやられそうになってて。でもだいたい誰かが助けてくれるというね。そして助けてくれた人が痛い目にあう(笑) もう見ている人だけじゃなく、ドラマの中でもそんな立ち位置になってるんです。
斉藤:守りたくなるキャラクターなんだよね。ってそれもうヒロインじゃん!
白川:ヒロインばっかり、今日!(笑)
最上:どんどん笑顔が可愛くなってますから(笑) それに成長していくのが見えるのは見ている人も気持ちいいんじゃないかな。
斉藤:弱さがあるのもいいんですよ。
最上:弱いがゆえにだと思うんですよね。これがめっちゃ強い人だったら……。誰もマウンテンには感情移入しないですもんね(笑)
斉藤:自分で頑張ってってなる(笑)
最上:やっぱりそこはサムだからこその魅力かな。でもそういう点ではポドリックもそうだよね。
白川:ここのメンバーはみんな当てはまるけど、実直さみたいなところがあるじゃないですか。ポッドの場合は実直さだけじゃなくて、ちょっと不器用で愚直な面もあるんですよね。実直なのはいいけど、愚直なのはあまり良くない事もあって。そういう愚直の悪さと実直の良さを行ったり来たりする、なんとも言えない危うさを持った人なんですよね。人によってはそのせいであっけなく命を落としてしまうんだろうけど、ポッドの場合は上手い事いい方向に重なっていって、いつの間にかみんなに愛されていくキャラクターになってた(笑)
斉藤:ブライエニー的には最初かなり邪険に扱ってたよね(笑)
白川:イライラしてましたよね、顔が(笑) 最初は全然役に立たなかったし。
斉藤:でも彼の忠義が本物だと分かってからのブライエニーの態度はもう全然違う。最終章ではポドリックを見つめるブライエニーも満足気というか、お母さんみたいな顔してる(笑) これだけ登場人物がいると、それぞれのキャラクターの細かい部分までは追いきれない事も多いけど、GOTだとちょっとしたワンシーンで、その時の関係をパっと分からせてくれる。そこがもうすごく上手い! だから逆に見応えがありすぎちゃうんですよ。すべて把握したくなっちゃうから、1回と言わず何回も見たくなる。
(インタビュー/文:幕田千宏)
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