第89回アカデミー賞®では作品賞ほか6部門にノミネートされ、ケイシー・アフレックが主演男優賞、ロナーガン監督が脚本賞を受賞したのが記憶に新しい「マンチェスター・バイ・ザ・シー」。俳優のマット・デイモンがプロデュースした作品としても話題となった本作が、11月8日(水)ブルーレイ&DVDリリースとなる。
ケイシー・アフレックが主演を務め、心を閉ざして孤独に生きる男が、兄の死をきっかけに故郷マンチェスター・バイ・ザ・シーに戻り、甥の面倒を見ながら過去の悲劇と向き合っていく姿を描いたヒューマンストーリー。
劇場で鑑賞、というよりはむしろ自宅の大画面テレビでゆっくりとストーリーに向き合いたい作品。「今週末はこれを観よう」というリストに是非載せて欲しい映画だ。
このたび、イラストレーター 石川三千花さん描き下ろしの「マンチェスター・バイ・ザ・シー」を題材にしたイラストとコラムが到着したので紹介しよう。
『マンチェスター・バイ・ザ・シー』
物語を実際に生きることが出来る役者たちによって、上等のシリアス映画になった。
『マンチェスター・バ・ザ・シー』は、このタイトルと同じ海辺の街の冬景色のように、寒々とした人間の孤独感を漂わせながらも、同時に人の心の温もりを感じさせる作品だ。幸せだった日々がある人間でも、人生はどう転ぶか分からない。だが、どん底に落ちても、人は誰かと関わりあうことで、ほんの少しずつでもまた心に灯をともすことができる。本作を観終わると、深い人間ドラマを味わった余韻が胸に残る。
本音をいえば、長く映画を観ていると大概の映画のパターンというものが読めるようになり、薄っぺらいヒューマンドラマや過度にシリアスなドラマはかんべんして欲しいと思うようになる。「泣かせたいのか?」といいたくなるような安っぽいドラマは、特に最悪。シリアスな状況にあっても、人間は間抜けもやらかすし、笑いだってある。そういう正直さが登場人物にない作品は、信用がならない。
『マンチェスター〜』が暗くてシリアスな作品であるのは間違いないが、いたずらにそうなっているのではなく、それぞれのキャラクターにはその人物しか持ち得ない矛盾やおかしさがあって、彼らが物語を“実際に生きている”から画面に引き込まれるのだ。まずは、なんといっても主演のリーを演じてオスカー俳優になったケイシー・アフレックの適役だ。彼のハンサムだが生まれ持ったちょっと暗めの目がいい。最初はプロデューサーのマット・デイモンがこの役を演じる予定だったらしいが、はっきりいってケイシーでよかった。マットでは正義感が強過ぎて、すぐにリーの甥っ子のパトリックの面倒をみそうじゃないか。人とのつき合いを拒み、酒が入ると人を殴るリーだが、心の奥深くで死んだ兄やその息子、そして別れた妻への愛を隠し持っている屈折野郎を、ケイシーは見事に“生きた”。
パトリックを演じたルーカス・ヘッジスの、繊細さと能天気さを同居させた高校生も見事だ。体はでかいがまだ16歳の彼が、自分の身に起こった対処しきれない不安な心情を、手に持った棒っきれを鉄柵に当てながら歩くその行為いっぱつで表していた。将来有望な役者だと思う。
適材適所のキャスティングによって、物語は真実味を出し、寒々しい海辺の街にもエンディングでは春の予感を残す。こんな上等なシリアスものなら、いつでもオッケイである。 石川三千花(イラストレーター)
「マンチェスター・バイ・ザ・シー」 2017年11月8日(水)リリース ※ブルーレイ&DVD 同日レンタル開始
ブルーレイ+DVD セット ¥3,990+税
発売・販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
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